「高野山・有田川上流域の持続的農林業システム」及び「有田みかんシステム」の世界農業遺産認定に向けた取組
和歌山県では、地域の皆様とともに「高野山・有田川上流域の持続的農林業システム」及び「有田みかんシステム」の世界農業遺産認定に向けた取組を展開しています。
農業遺産とは
- 農業遺産とは、何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、それに関わって育まれた文化、ランドスケープや農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域(農林水産業システム)を認定する制度です。
- 農業遺産には、国連食糧農業機関が認定する「世界農業遺産」と、農林水産大臣が認定する「日本農業遺産」があります。
- 和歌山県では、「みなべ・田辺の梅システム」が世界農業遺産に、「下津蔵出しみかんシステム」が日本農業遺産に認定されています。
参考ホームページ
- 農林水産省 世界農業遺産・日本農業遺産(https://www.maff.go.jp/j/nousin/kantai/giahs_1.html)
- みなべ・田辺地域世界農業遺産推進協議会(https://www.giahs-minabetanabe.jp/)
- 海南市 日本農業遺産認定(http://www.city.kainan.lg.jp/kakubusho/machizukuribu/norinsuisangakari/nougyouisann/index.html)
高野山・有田川上流域の持続的農林業システム~聖地 高野山を支え、平地の少なさを乗り越える自然と生業との融合~
農業遺産 申請団体:高野山・有田川流域世界農業遺産推進協議会
高野山・有田川上流域の持続的農林業システムとは、
- 物資調達が困難な山上の聖地 高野山において、100を超える木造寺院を維持してきた「高野六木制度」
- 農業・林業(用材生産)を主業としつつ、高野山とともに発展してきた花園地域の「傾斜地を利用した仏花栽培」と清水地域の「棚田の畦畔を利用した多様な植物の育成・栽培」
を核とした農林業システムです。
1.高野六木制度
- 寺院の建築・修繕以外でのスギ、ヒノキ、コウヤマキ、モミ、ツガ、アカマツ(高野六木)の伐採を禁止。
- 伐採にあたっては、必要となる樹だけを抜き切り(択伐)。
- 伐採後は、苗木の植え付けや自然の芽生えの育成(天然下種更新)により、森林を育成。
→100を超える木造寺院の建築・修繕用材を永続的に確保
高野六木制度が支えた「壇上伽藍 中門」の再建(2015年)
左:樹齢300年生のヒノキの択伐
中:高野六木制度で育成したヒノキによる18本の心柱
右:再建された中門
2.仏花栽培
- 花園地域は、古くより仏花を栽培し、高野山に供給。(その歴史が「花園」の地名の由来。)
- なかでも、コウヤマキは「1枝供えると60種類の花を供えたことに匹敵する」といわれる、高野山に欠かせない仏花。
- 花園地域では、傾斜地を利用してコウヤマキを栽培することで、平地の少なさを乗り越え、集落を発展。
左:花園地域でのコウヤマキ栽培
中:仏花として用いられるコウヤマキの切り枝
右:高野山でのコウヤマキの露店販売
3.棚田の畦畔を利用した多様な植物の育成・栽培
- 清水地域では、棚田の畦畔を利用し、多様な植物を育成・栽培することで、平地の少なさを克服。
- 現在、日本一の生産量を誇る山椒は、畦畔での栽培が起源。
- 清水地域では、畦畔で育成・栽培する多様な植物の中から、ニーズに応える品目の栽培を拡大し、集落を発展。
左:畦畔で栽培されるコウゾ(和紙の原料)
中:畦畔で育成されるフキ
右:日本一の生産量を誇るぶどう山椒の栽培
人々は高野山への信仰で結ばれており、豊作を高野山に祈念する「御田舞」など、当地ならではの農耕祭事が生まれています。
このように本システムは、高野山を支え、高野・花園・清水地域の暮らしを発展させてきた、世界に誇るべき農林業システムです。
これまでの取組
平成30年3月23日:農業遺産 キックオフシンポジウム
農業遺産に取り組む意義とその活用
国連大学シニアプログラムアドバイザー 永田 明 先生
高野山有田川流域の伝統的農林業システム
和歌山大学システム工学部 教授 養父 志乃夫 先生
平成30年6月16日:高野山・有田川流域世界農業遺産推進協議会設立
平成30年6月19日:平成30年度農業遺産認定申請 申請書提出
平成30年8月9日:一次審査(書類審査) 通過
平成30年10月3日:世界農業遺産等専門家会議による現地調査
調査委員:栗山 浩一 委員(京都大学大学院 教授)、酒井 暁子 委員(横浜国立大学大学院 教授)
平成31年1月24日:二次審査(農林水産省でのプレゼンテーション審査)
平成31年2月15日:審査結果 公表[非認定]
平成31年2月~:再挑戦についての協議開始
令和元年8月7日:農業遺産推進協議会にて再挑戦を正式決定
令和元年8月~:システムの再構築に向けたキーマン取材、有識者との意見交換
令和2年5月15日: 農業遺産推進協議会にて申請書案を承認
令和2年7月22日:令和2年度農業遺産認定申請 申請書提出
有田みかんシステム
農業遺産 申請団体:有田みかん地域農業遺産推進協議会
有田みかんシステムとは、日本で初めて、みかん栽培を生計の手段に発達させるとともに、持続可能な開発を可能にし、当地域を日本一のみかん産地に発展させた持続的農林業システムです。
1.みかん栽培の産業化
- 室町時代より自生みかんを栽培。
- 安土桃山時代には、熊本県から小みかんを導入し、優良系統の選抜を重ね「紀州みかん」を育成。
→日本のみかん産業を牽引
紀伊国名所図会(1812年)で描かれた有田地域のみかんの階段園(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)
紀州みかん
2.多様な品種の発見・栽培
- 高い観察力により、数多くの優良品種を発見。
- みかん栽培との兼業により、農家ニーズに応える「2年生・土付き苗木」を生産。
→産地の自立性を向上
有田地域で生まれた温州みかん品種の一例(左上:林温州、右上:田口早生、左下:植美、右下:きゅうき)
初期成育が安定する2年生・土付き苗木
3.地勢・地質に応じた栽培
- 地勢・地質の組み合わせに応じた「長所を活かし、短所を克服する」栽培。
→地域全体で「有田みかん」産地を形成
多様な地勢・地質の組み合わせに応じたみかん栽培
(左:三波川帯 河口部の階段園、中:秩父帯 有田川南岸の階段園、右:四万十帯 海岸部の階段園)
出典:有田みかんデータベース(http://www.mikan.gr.jp/)
4.販売面での優位性の維持
- 日本初のみかん共同出荷組織「蜜柑方」を組織。
- 以降も時代に応じてその形態を発展。
- 現在では、多様な出荷組織が共存。
→販売面での優位性の維持
紀伊国名所図会(1812年)で描かれた蜜柑方による紀州みかんの江戸出荷(出典:国立国会図書館デジタルコレクション)
本システムにより、持続可能な発展を続けた有田地域は、日本を代表する地域ブランド「有田みかん」を確立し、日本一の生産量を誇る産地となるとともに、他産地の発展を牽引。
- 本システムにより、400年以上にわたりみかん栽培を継承。
- 多くの産地が栽培面積を減少させるなか、栽培面積を維持。