7.旧県会議事堂の瓦
瓦の産地と生産者
県会議事堂の瓦は、へら書きや刻印により、大阪府岬町の谷川で焼かれたことが明らかである。
製作の元請人は田中兵造で、ほぼすべての瓦に刻印が見られる。鬼瓦や留蓋の唐獅子は、日下堅作によって製作されたことがわかる。
田中兵造の刻印 鬼瓦の日下堅作のへら書き
4種類の大きさ
県会議事堂の田中兵造の刻印のある瓦は4種の大きさがある。大きなものから幅32cm、30cm、28cm、24cmである。一番大きなものが議場で葺かれ、次が本館、その次が控室で使用されたとみられる。柱なども議場、本館、控室の順で寸法が小さくされており、瓦も場所に応じて使い分けていたと考えられる。
4種の大きさの瓦
谷川瓦について
谷川瓦は大阪府泉南郡岬町多奈川谷川を中心に生産されていた。当地は瓦を焼くのに適した良質の土が採れ、海岸に近く舟での出荷が容易であったため、江戸時代から明治・大正時代に一大生産地となった。大阪や和歌山に販路を伸ばし、県会議事堂のほか、重要文化財の粉河寺大門、温山荘浜座敷など、県内 に今も残る文化財の屋根に使われている。また、戦災で焼失したかつての国宝和歌山城も、この谷川瓦で葺かれていた。
鬼師日下堅作について
日下堅作の刻印には「細工人」とあり、通常の瓦のみならず、鬼瓦などの製作を得意とした。議場の鬼瓦には、「七十才翁」と記され、日下が県会議事 堂の瓦を製作した年齢がわかる。鬼瓦や留蓋の唐獅子は、繊細かつ角が立てられた見事なへらさばきで製作されており、日下の確かな腕が見てとれる。
県会議事堂のほかに、日下は和歌山や大阪に多くの作品を残している。善行寺山門(和歌山市)や法福寺山門(阪南市)は、その代表的な例と考えられる。
議場鬼瓦は西洋風の葉のモチーフ
善行寺山門(和歌山市)
法福寺山門(大阪府阪南市) 法福寺山門の兎の棟飾り