NPOとの協働推進ガイドライン 3章
第3章 効果的な協働を推進するために
前章では、行政がNPOと協働を推進していくことの意義、必要性について説明しました。
では、実際に協働を推進していくためには、どのようなことに留意し、実際、どのような協働の手法、手順で進めていけばよいのでしょうか。
この章では協働の進め方について説明します。
1 協働をはじめる前に
NPOとの協働をはじめる前に、行政職員が基本的に理解しておかなければいけないことがあります。
協働というものは共通の目標達成のために、両者が対等な関係のもと、緊張感を保ちながら一緒に取り組む行為だということです。
行政が決して上下関係の上に位置するわけでもなく、もちろんその反対でもありません。
NPOと協働するにあたっては、相互理解と尊重が事業の成否をわける大きなキーワードになります。
(1)相互理解と尊重
- 組織文化の違い
行政とNPOとは本来異なった文化をもつ組織であり、設立された経緯、また組織としての考え方も違います。
互いに異なる文化を持つ組織の協働を成功させるためには、何よりもNPOと率直な意見交換を重ねて信頼関係を構築することが大切です。
時には相手方の活動現場に出向き、その活動内容を知ることも、相手方の組織を理解するためには重要なことです。 - 情報公開の姿勢
行政とNPOとの相互理解が十分ではない現状の中、今後よりよい信頼関係を構築するためには、行政から積極的に情報を公開していく姿勢が求められます。
情報の公開は、協働する部分に関する情報にとどまらず、事業全体についての情報を開示し、第3者となる県民にも評価される事業をともに創りあげていくという姿勢をもつことが重要です。 - 役割分担、責任の所在を明確化する
協働を行う前に役割分担や責任の所在を明確にしておかないと、協働の途中で相手方に責任を転嫁したりするなど良好な協働関係が構築されなくなってしまう恐れがあります。
協働を始める前に、「ここの業務は行政が実施し、責任も持つ、ここはNPOが責任を持つ、」といった、役割分担と責任の所在をはっきりと決めておくことが重要です。 - 行政のしくみについて説明する
NPOの中には今までに行政との付き合いがない団体が多いため、委託と補助の違い、行政の決裁システムや支払い方法など、職員にとっては当たり前と思っていることでもわからないことが多くあります。
こういった、行政のしくみを事前に説明しておかないと、後々のトラブルのもとになります。
行政側としては、見積書・仕様書など必要な書類や履行してもらわなければならないことについては、何故必要であるのかを説明したうえで、事前に理解してもらっておくことが重要です。 - 下請け、安上がりという考えをもたない
協働は、共通の目標達成のため、両者が一緒に取り組むことに合意した場合に行われるものであり、対等な関係のもと実施するものです。
相手の意向も聞かず、こちらからの希望や都合ばかりのアプローチでは、良好な協働関係は構築できません。
単なる、下請けをお願いしたい、事業を安くしあげたいというような行政側の都合だけでは協働の成功が望めません。 相手方の立場を尊重して協働を進めることが重要です。
(2)行政システムの見直し
- 県全体での横断的な組織の連携
NPOは行政の部局などの組織に対応した活動をしていません。新しい課題に取り組むNPOと協働を進める過程の中で、複数の部局に係わる事業が多く出て来ます。こういった協働については関係する各部局が連携した対応が必要です。
また、NPO側から複数の部局に係わる政策課題の提案が出てきた場合は、複数の部局が連携して対応をする必要があります。 - 和歌山県では平成15年12月にNPOとの協働を積極的に推進するため、庁内の横断的な組織として、「和歌山県NPO推進庁内連絡協議会」を設置しました。
今後、複数の部局にまたがる協働については、この協議会を活用し、連携を図っていく必要があります。
- 和歌山県NPO推進庁内連絡協議会
NPO施策に関する必要な事項の審議、連絡調整 - NPO推進員
各課室におけるNPO推進及びNPO施策に関する連絡調整
2 協働の手順
NPOとの協働を検討する場合、実際にどのような手順で、またどのような点に留意して進めていけば良いのでしょうか。
一般的に想定される協働の手順を参考に掲載します。
3 協働の手順における留意点
協働のきっかけづくり
協働事業を検討する以前の段階として、まず協働の相手方と出会うきっかけづくりが考えられます。
NPOを対象にしたフォーラムの開催やNPOとの意見交換の場の設定など、まず、NPOに出会う場づくりと情報交換を重ねることが協働のはじまりになります。
お互いに知らない相手同士が協働をしていくわけですから、まずは、出会い、知り合って互いの意見交換をすることが協働の第一歩ともいえます。
(1)協働事業の検討
- 協働事業の検討
今後新たな事業を検討する場合ならびに現在実施している全ての既存事業の見直しにおいて、NPOと協働で事業実施することにより事業効果が期待できないか検討する必要があります。
ただし、行政にとって、事業の相手方はNPOだけではないため、企業、公益法人など他の主体と事業実施する方がより効果的にできるものまで、無理に協働する必要はありません。
NPOの特長が生かせ、相乗効果が見込めるものについては、NPOの参入の機会を確保することを忘れないということが重要です。 - 協働の効果を考える
NPOと協働で事業を実施しようとしている事業について、協働をすることでどのような効果があるのか考える必要があります。
県民の参加を促進するためにNPOと協働するのか、専門性を生かしてサービスの質の向上を図るのか、NPOのどの特長が生かせるのか考える必要があります。
(参考)NPOの特長
多くの地域住民(県民)が参加している点
専門性を有しているという点
当事者性を有しているという点
柔軟性、迅速性をもって先駆的な事業に取り組んでいるという点
など - 対象となるようなNPOが存在するか
NPOと協働することにより効果が見込まれる事業については、協働の相手方となるNPOが実際に存在するのか調べてみる必要があります。
NPOの探し方(情報収集方法)
- 県のNPO協働推進課のホームページ「わかやまNPO広場」http://www.wakayama-npo.jp(外部リンク)でNPO法人、市民活動団体の一覧表から検索してみる
- 県NPOサポートセンター、NPO協働推進課に問い合わせをしてみる
- 県NPOサポートセンター、NPO協働推進課に備えているNPO法人の閲覧書類を調べる
- 県内の市町村に該当する団体があるか問い合わせをしたり、各市町村あて文書で照会する
- 県のNPO協働推進課のホームページ「わかやまNPO広場」http://www.wakayama-npo.jp(外部リンク)のイベント情報、県NPOサポートセンターで掲示しているチラシ等の情報を収集する
- 新聞、情報誌等で、関係するNPOの記事を収集しておく
他府県のNPOの場合
- 内閣府、各都道府県のNPO担当課のホームページで調べる
- (県の「わかやまNPO広場」のリンク集から、各都道府県のホームページが検索できます。)など
(2)協働形態の検討
協働事業を検討したうえで、協働することで事業効果が見込め、対象となるNPOも存在する場合、どのような協働形態が最も効果的に行えるのかという検討が必要になります。
ここで留意しなければならないことは、協働の形態は、何も委託や補助など、支出を伴うものばかりではないという事です。
NPOの自主事業に対して後援名義の承認を行ったり、行政の情報網をつかって事業周知を図るなど支出を伴わない効果的な協働の方法も数多くあるはずです。
むやみに協働を推進するという名目で委託や補助事業を増やし、NPOとの協働を進めることは、行政のスリム化にも逆行し、NPOもそのような協働を望んでいないはずです。
協働をおこなうスタイルに応じ、最も効果的な協働形態を選択することも、協働事業の成否に関わる重要な要因となります。
主な協働の形態としては、
- 委託
- 補助
- 企画立案への参画
- 共催、実行委員会
- 事業協力
- 公共施設等の提供
- 公の施設の管理運営
- 後援
- 情報交換、意見交換、人材交流
などが考えられます。
1 委託
委託とは、本来行政がおこなうべき事業について、行政が自ら実施するよりも他の主体が実施した方が、より大きな効果が得られると思われる場合に、実施するものです。
NPOへ委託する目的は、行政にはない発想や専門性を購入することにありますから、単なる下請けではなく、対等なパートナーとして接する姿勢を持つ必要があります。
また、委託は行政の事業として実施するものであるため、事業主体は行政になります。協働を行う以上、受託先には行政が直接執行する以上の実力がもとめられますので、NPO自身の実力向上、行政への依存体質からの脱却にもつながることが期待できます。
2 補助
補助とは、本来民間が実施している事業について、一定の公共性が認められる場合に申請に基づき行政がその経費の一部を助成するものです。
補助事業はNPOの自主性を損なわない利点がありますが、補助の決定に公平・公正を伴わないと、特定の団体への資金援助にもなりかねず、選定には慎重な姿勢が求められます。
また、安易な補助を増やすことは、財政支出を拡大し、NPOの行政依存体質を助長する危険性もあります。
3 企画立案への参画
行政が事業を企画立案する段階で、NPOからの意見や提案を受け、行政の事業にNPOの特性や能力を生かすものです。
各種審議会や委員会、懇談会、協議会などに継続的にNPOのメンバーの参加を求めたり、NPOから政策や事業提案を求めたりすることなどが考えられます。
企画立案への参画については、多様なNPOの参画をもとめ、行政では思いのつかない民間の発想を生かすよう留意する必要があります。
4 共催、実行委員会
共催とは、それぞれが主催者となって共同で一つの事業を行う形態です。また実行委員会はイベントなどを開催する場合に複数の関係者が新しい一つの組織を立ち上げ、実行委員会が主催者となって事業を行う形態です。
どちらも、事業の企画段階から情報を積極的に交換しあい、全ての主体が対等な立場で事業執行にあたり、事業目標の共有化に努める必要があります。
5 事業協力
事業協力とは、共催や実行委員会以外の形態で、協定書などを締結することにより、一定期間、継続的な関係のもとで事業を協力して行う形態です。経費負担、役割分担、責任など、お互いの得意分野を出し合い協力していくもので、その協働方法は多岐にわたります。
双方の特性や得意分野を生かすことで、協働にふさわしい事業が期待できます。
6 公共施設等の提供
公共施設等の提供とは、会議室の貸し出し、事務所の提供などNPOが活動する場所の提供のことです。
NPOの中には、ミーティングをする会議室、講演会などの会場、あるいは事務所など、金銭的な事情も含めて、近くに適当な場所が見つからず困っているNPOが数多くあると思われます。
既存の会議室をNPOも利用できるようにしたり、公共施設の一部をインキュベーションブースなどの事務所として貸し出すなど、既存の公共施設等を提供することで、NPOの活動を活性化できる可能性があります。
7 公の施設の管理運営
公の施設の管理運営とは、公園、児童館などといった公共の施設の管理運営をNPOに実施してもらうことです。
この公の施設の管理運営については、地方自治法の一部改正(平成15年6月公布)により、従来の「管理委託制度」から新たに「指定管理者制度」が導入されました。
「指定管理者制度」とは、公の施設の管理主体の範囲を民間の事業者等(企業やNPO)にまで拡げた制度で、地方公共団体の指定を受けた指定管理者が管理代行をおこなえる制度です。
例えば、公園を地域住民が多く参加しているNPOに管理運営をしてもらった場合、地域住民のニーズにあった、地域住民による公園づくりが期待できます。
公の施設を管理運営していくうえで、民間の事業者等(企業やNPO)に実施してもらった方が効率的、効果的に実施できるものについては、指定管理者として指定していくことも大切です。
8 後援
後援とは、NPOが行う事業で、行政にとってもその実施目的が合致する場合、行政がNPOの事業に対してバックアップ(後ろだて)を行うものです。まだ県民にその有意義な活動が知られていないNPOのイベントなどに行政が後援名義を承認することによって、参加者が増え、活動が拡がっていく可能性もあります。
NPO活動を活性化させるためにも、できる限り多様な公益性を認め、後援名義を行うよう努める必要があります。
9 情報交換、意見交換、人材交流
行政とNPOが持っている情報、ノウハウなどを提供しあうものです。
意見交換の場の設定、フォーラム、ワークショップの開催、人材交流などが考えられます。
情報交換や意見交換を行うことで、考え方の違いや共通点が発見でき、相乗効果が期待できます。
そのような場の設定をおこなった際には、互いの意見を尊重し、建設的な意見交換ができる状況にすることが大切です。
また、情報交換等をより進めた形として人材の交流があります。違った環境の中に入って一緒に仕事をすることにより、 より深く相互の理解と協働が進められます。勤務条件、人材の選考など事前の調整が必要です。
主な協働の形態を掲載しましたが、他にも効果的な協働形態は考えられるはずです。
より高いレベルの事業成果を得るためにも、これらの協働形態にとらわれず、事業の内容に応じて、最も効果的におこなえる形態を検討し、導入することが重要です。
(3)協働段階の検討
NPOとの協働事業を実施する場合、事業のどの段階から協働を開始するのが最も効果的かということも検討する必要があります。
例えば「実行委員会での協働ならば、事業の企画段階から協働するのが一番良いのではないか。」というふうに協働する事業に応じて最も効果的な協働の段階を検討する必要があります。
- 政策形成段階からの協働を考える
行政が事業の枠組みを考え、予算要求をして新規事業を実施していくことも重要ですが、事業の枠組みそのものが県民のニーズに即していない場合もあるかもしれません。
NPOの中には、行政の気づかない社会的課題を発見し、解決できるNPOも数多く存在するはずですから、政策形成段階、事業の枠組みの設定時点からの協働についても今後は考えていく必要があります。
(4)選定方法の検討
NPOとの協働を行なっていく際に、協働の相手方をどのように選定するのかという選定方法の検討は非常に大切です。
行政側で把握しているNPOのみを協働相手の候補と考えてしまうと、協働相手が特定の団体に固定化し、その団体の既得権化につながるおそれもあります。
協働の相手方の選定は、選定の公平性や透明性を確保するためにも、事業達成のためにどのような特長をもったNPOと協働するのか、という目的をきちんと明確化したうえで、広くその対象となるNPOを募る必要があります。
また、事業遂行のためには、選定するにあたり、事業遂行能力を確認する意味でも一定の選定の基準を設けることもやむを得ないことです。ただし、選定基準は事業遂行のために設けるものであって、NPOの参入を狭めるものであっていけません。
「選定基準の一例」
(1) 活動内容、活動実績
- NPOの活動内容、活動地域、受益者の状況
- 協働事業に関する事業実績
(2) 事業の実施能力
- 事業計画の経費、人員、スケジュール等の妥当性
- 年間を通じた継続的・安定的な事業実施
(3) 財政状況
- 収支の健全性・安定性
(4) 会員数・事務局体制
- 総会員数・ボランティアの参画人数
- 事務局のスタッフ数 など
委託事業の場合の選定方法としては入札、公募、随意契約が考えられます。協働事業の内容に応じ、これらの選定方法の中から、最も公平性や透明性を確保した選定方法を検討しなければいけません。
補助事業の場合の選定方法も同様です。
現在、各自治体で取り組まれるようになってきている提案公募方式によるNPOの選定方法は、NPOの特長を生かした協働を実施し公平性を確保した一つの有効な選定方法であるといえます。
NPOの企画案を生かした提案公募形式の事業の手順(参考)
提案公募形式の事業とは、NPOの特長を活かした柔軟で斬新な発想の企画案を広く募り、プレゼンテーション、公開審査などを実施して、最も優れた企画案を採択する方法です。
企画案の募集については、行政の課題をあらかじめテーマとして設け募集する場合と特定のテーマを決めずに自由な提案を募る場合が考えられます。以下事業を実施するにあたって留意する点を記載します。
(1) 公募テーマの設定
公募するテーマを設定する場合は、NPOの自由な発想に基づく効果的な企画案が得られ、有益な協働事業が実現できるよう、提示テーマの内容については、骨格にとどめることが重要です。
(2) 対象となるNPOの応募資格について
応募資格を検討する場合は、法人格の有無にとらわれず、協働の内容によって適切な応募資格を検討する必要があります。
「応募資格(例)」
- NPO法人またはボランティアグループ等の任意団体
- 公募テーマに沿った活動を通常の活動の中でも実施している団体
- 団体の活動歴が設立から年以上であること(任意団体歴含む)
- 団体を構成する正会員が名以上いること
- 過去2カ年の決算、本年度予算が万円以上であること
- 事業の記録保存と成果報告ができること
- 宗教活動や政治活動を主たる目的とした団体でないこと
- 特定の公職者(候補者を含む)、または政党を推薦、支持、反対することを目的とした団体でないこと
- 暴力団でないこと、暴力団もしくは暴力団員の統制の下にある団体でないこと
(3) 審査員の選定、審査基準について
審査員は、対象事業の内容によって異なりますが、行政、学識経験者、応募団体とは関係のないNPO関係者等をバランスよく選定し、審査の公平性を確保することが重要です。
また、審査基準については、応募前に評価基準の考え方や配点について考えておき、審査員、NPOに事前に周知することによって、審査の透明性を確保することが重要です。
「審査基準(例)」
- 実行性 提案した事業を確実に遂行できる、組織態勢と運営基盤がある
- 専門性 計画している事業内容に、専門性がある
- 効果性 事業成果の達成指標が明確であり、その成果が広く県民に還元される
- 現実性 実行可能な方法、計画、予算で立案されている
- 公開性 組織運営や事業の公開・透明性が高い
- 自立性 経常的に行っている活動の資金確保が図れている
- 先進性 行政の発想にない、先進性がある
(4) 募集要項、選定要項の作成
事業の枠組みが決定したら、募集要領(56ページ参照)、選定要項(62ページ参照)を作成する必要があります。
募集要項に記載する内容には以下の項目が想定されます。
事業の目的、事業テーマ、応募資格、応募期間、応募書類、委託金額、審査方法、審査基準、事業スケジュールなど
(5) 広報
広報については、ホームページへの掲載、関係機関、関係団体への周知、マスメディアへの情報提供、NPOへのダイレクトメールなど、できる限りの周知をする必要があります。
(6) 受付
受付期間としては、より多くの企画提案を募るためにも1ヶ月程度設定しておくことが望ましいと思われます。
(7) 審査
審査方法については、書面審査や公開審査(プレゼンテーションなど)が考えられます。
どちらか一方のみで選定する場合もあれば、第一次審査は書面で行い、第二次審査でプレゼンテーションによる採点を行って、団体を選定する方法もあります。
NPOから応募のあった企画案を公平性、透明性をもって選定するためにも、公開のプレゼンテーション形式で実施することが望ましいと考えられます。
また、選定基準や選定方法、選定結果についての情報公開も重要になってきます。情報公開によって、市民からみても、選定の過程や結果の妥当性が確認できることが求められます。
- NPOからのアイデア提示における協働の選定について
協働の相手方となるNPOの選定方法は、前述のとおり、入札や公募など最も公平性や透明性を確保した方法を検討する必要があります。
しかしながら、今後、NPOとの協働を推進していくことで各部局においてNPOとの情報交換や意見交換をする機会が増え、あるNPOから効果的な企画提案の提示(アイデア提示)を受け、そのNPOの企画提案を協働で実施していくケースも増えてくるものと思われます。
そういった場合は入札や公募ではなく、特定のNPOを選定(委託の場合は随意契約)することになるため、なぜその特定のNPOを選定することになったのかという選定するに至った経緯の説明や事業評価の情報公開など、第三者に対しての説明義務が一層必要となることに留意のうえ、公平性や透明性を失うことがないよう、書面できちんと残しておくことが重要です。
(5)事業実施
協働を実施することになり相手方も決定した段階で、行政とNPOとの間で事業をはじめる前に協働事業の最終目標をきちんと共有しておくことが重要です。
また、お互いの役割分担、責任の所在も事前にきちんと決めておく必要があります。
なお、事業をはじめたら、実施している途中で定期的に進捗状況を確認し、意見交換をおこなうことが大切です。
- 契約保証金
契約保証金とは、県が契約を締結する際に、事業の完全な履行を確保し、債務不履行等の場合にうける損害の賠償を容易にするため相手方から徴する保証金で、契約金額の100分の10以上(工事又は製造の請負契約については100分の5以上)を契約保証金として県に納める必要があります。
しかしながら、和歌山県財務規則第93条各号に該当する場合には、これを免除することができます。
NPOと契約をする場合には、資金的な側面及びに協働内容について十分配慮した上、免除することが可能か検討する必要があります。 - 著作権
協働事業の中で委託事業を実施する際、事業成果物の著作権の取り扱いをどうするかという問題が生じます。
一般的な委託事業では、契約書に著作権の帰属先を明記することにより委託元が著作権を所有することになります。したがって、行政がNPOに委託事業を実施する場合は著作権は行政に帰属することになります。
しかしながら、事業の成果物によっては、NPOによって社会に還元する方が効果的な成果物もあるはずです。例えば、NPOの方がネットワークが多い場合はNPOの方が多くの人に波及できますし、NPOが普及啓発する方が県民に親しみやすいケースもあるはずです。
ですから、事業の成果物については、一概に行政のものと決めつけずに、著作権をはじめとした権利の帰属についてNPOと十分意見交換をしたうえで、どちらかの帰属にするか、あるいは両者の帰属とするかということを書面にて確認しておくことが大切です。 - 支払い方法(一般払(精算払)、前金払、概算払の場合)
行政の支払は、履行確認後の支払(一般払)を原則としています。しかしながら第1章で述べたようにNPOの多くは、財政的課題を抱えていることから、前金払(委託)や概算払(補助)をしなければ事業を遂行することが困難な団体が多いのも現状です。
したがって、NPOとの協働における支払方法については、下記のような「資金収支表(委託、補助)」を提出してもらうことにより、NPOの資金繰りなどの財政状況等を十分踏まえたうえで、前金払(委託)や概算払(補助)をすることも検討していく必要があります。
なお、前金払又は概算払で支払う場合は、あらかじめ事業をはじめる前に定めておかなければなりません。
(参考)「資金の支払方法」
- 前金払
地方自治法施行令第163条第2号及び和歌山県財務規則第64条の規定に基づき、債務の額が確定している場合には、前金払することができる。
前金払は、その本質上精算は伴わないが、契約の変更等支出後の事由により、精算の必要があるものについては、債務の額が確定した後、30日以内に精算をさせなければならない。 - 概算払
地方自治法施行令第162条第6号及び和歌山県財務規則第62条の規定に基づき、事業量の増減により経費が変動する可能性がある事業など、債務の額が確定していない場合には、概算払することができる。
この場合には、債務の額が確定した後、30日以内に収支精算書の提出を求めるなど、精算手続きが必要となる。
(6)事業評価
協働事業を行った後は、協働することで相乗効果があったのか事業評価をする必要があります。
今後の協働を更にステップアップするためにも、一つ一つの協働事業の結果を正しく評価し、次の協働事業への企画・実施にフィードバックさせていく積み重ねが重要です。
また、事業結果については、NPOと行政の双方がそれぞれ評価を行うことが大事です。
事業評価については評価項目についてのチェックシートを作成するなどして、事業の実施段階から事業終了までの評価を行う必要があります。
また、県民をはじめとした第3者に対しても事業成果を評価してもらえるよう、積極的に情報を公開する姿勢が必要です。
【チェックシートにおける評価項目の一例】
(1) 目標設定の妥当性
- 事業の目的は明確であったか
- 事業の目標は共有で設定されたのか
(2) 協働として実施したことの妥当性
- 協働として実施したことは適切であったか
- どのような相乗効果が図れたのか
(3) 協働形態の妥当性
- 協働した形態は最も適切な協働形態であったか
(4) 協働相手の妥当性
- 協働の選定方法は適切であったか
- 選定基準は適切であったか
(5) 協働事業の妥当性
- 協働において意志疎通は図れたのか
- 役割分担は適切であったか
- 進捗状況は適切に管理していたか
- 相手方に対する意見は十分に議論され、解決したか
(6) 目標達成度、
- 当初の目標は達成できたのか
- 県民サービスの向上につながったのか
(7) 費用対効果
- 費やした費用は適切であったのか
- 今後の波及性は見込めるのかなど
事業終了時に、行政、NPO、県民を対象にした事業成果の報告会を開催し、意見交換をおこなうことも評価のうえでは有効な方法です。
また、行政側、NPO側それぞれの視点で客観的に評価できる環境づくり(自由に発言できる雰囲気づくり)に配慮することも大事です。
なお、評価をした結果、協働事業を実施する上での問題点が明確になった場合は、それを改善するための対策を考えていく必要があります。
評価結果は、次の協働事業の企画や実施にフィードバックし、協働事業や協働方法、協働の選定方法を絶えず見直すとともに、事業の継続、廃止など常に検討していくことが重要です。