NPOとの協働推進ガイドライン 2章
第2章 なぜNPOとの協働を推進するのか?
現在、国及び全国の多くの自治体でNPOとの協働が重要視され、各種施策が展開されています。
では、なぜ行政がNPOと協働を推進していく必要があるのでしょうか。
この章では協働とは何か?なぜ、NPOと協働していくことが必要とされているのかについて説明します。
1 協働とは
そもそも協働とはどのようなことをいうのでしょうか?
「非営利・公益活動の分野で、目的意識を共有し、相互の特性を尊重しながら対等の立場で活動していくこと。」
…(『和歌山県ボランティア・NPO活動促進基本方針』和歌山県)
「公共活動の共通目標を達成するために、パートナーを尊重した対等の関係で共同活動を行い、活動の成果を相乗効果的に創出させる戦略的、実践的行為。」
…(『NPOと行政の協働の手引き』社会福祉法人大阪ボランティア協会)
「自己の主体性・自発性のもとに、共通の領域において、互いの特性を認識・尊重しあいながら、共通の目的を達成するため、課題解決に向けて協力・協調すること。
…(『大阪府NPO活動活性化指針』大阪府)
これらの定義から、協働とは、「公益の分野で共通の目標を達成するために、各々が取り組むよりも、互いの長所を生かすことができ、相乗的な効果を生み出せるものについて、一緒になって課題解決に取り組む行為。」といえます。
2 なぜ協働を推進する必要があるのか?
(1)協働が求められる背景
それではなぜ行政はNPOと協働していく必要があるのでしょうか?
そのことを理解するためには、まず、協働が求められるようになった背景を考えることにします。
I 高度成長期、バブル時
戦後から高度成長期にかけて、日本経済は成長の一途をたどり、法人税等の税収増もあって、行政はできる限り、市民のニーズに応えられるよう、公共サービスの領域を担ってきました。
市民の側も、所得の一部を税として負担することにより、公共的な領域は、当然、行政が担うものと考えていました。
II バブル崩壊後、阪神淡路大震災後
バブル崩壊後、経済の低迷により、行政は大幅な税収減の状況に陥り、サービスの縮小を迫られ、限られた予算の中でのサービスの見直しを余儀なくされました。
並行して、少子・高齢化、環境保全活動の高まりなど、市民の社会的課題に対するニーズも多種多様化し、限られた予算でおこなわれる行政サービスでは社会の課題を全て解決できないという限界も生じてきました。
そのような状況を背景に、公共的な領域を行政に頼るのではなく、市民自らが社会的課題を解決するため、自発的な活動を展開するNPOの活躍がめざましくなってきました。
その顕著な例が阪神淡路大震災時のボランティア・NPOの活躍です。行政が対処できない領域でNPOが迅速に柔軟性をもって、被災地の復興に多大なる貢献をもたらしました。
III これからの公共サービスのあり方
今後、限られた財源の中、これからも増加するであろう社会的課題の解決のため、行政が市民のニーズに全てこたえることは難しくなっています。
多様なニーズに対して、きめ細かくかつ最も効果的な公共サービスを提供していくためには、従来行政が提供してきたサービスを見直し、次の3つの方向に進めていくことが必要です。
(1) 自発的に公益活動を行うNPOの活動が活性化し、市民自ら社会的課題を解決する〔自主的活動〕
(2) 行政が実施する必要があるけれども、行政以外でもサービスの提供が可能なものについては、できる限り、アウトソーシング(外部委託)をおこなっていく〔コスト縮減〕
(3) 行政、NPOが独自で活動を展開するよりも協働で実施した場合、相乗効果が見込まれるものについては協働を積極的に推進していく〔協働による相乗効果〕
図で示すと下図のとおりとなります。
協働とアウトソーシング
協働は、共通の目的をもつ2者以上が協力・連携して一緒に取り組んでいく行為であり、アウトソーシングは目的の共有を問わずコスト削減を主な目的として外部に委託する行為であり、基本的な考え方は異なります。
とはいっても、アウトソーシングの委託先としてNPOが選ばれ、結果的に県民の自発的な活動につながり、「協働」と同様の成果を生むことも想定されます。
このガイドラインでは、行政が、NPOと一緒になって課題解決に取り組んでいく「協働」の視点から説明を行っています。
(2)NPOとの協働を推進していく必要性
公共サービスの新たな担い手として期待されているNPOの活動が活性化し、行政がNPOとの協働を推進していくことが、行政のスリム化並びに県民サービスの向上・拡大のために重要であることについて説明しましたが、NPOとの協働を推進していくことは、以下の点においても、行政にとってより効果的、効率的に事業実施できると考えられます。
① 公益的な活動を行なっているということ
NPOの活動は社会的課題の解決を目的とし、不特定多数の者に寄与することを主な目的としていますから、NPOは行政と共通する目標をもって活動をおこなっています。
② 行政にない特長を多数もっているということ
◆ 多くの地域住民(県民)が参加している点
NPOのなかには、その活動に賛同し、多数の地域住民(県民)が参加しているNPOが存在します。そういったNPOと協働することで、直接的に県民の県政への参画につながる効果があります。また、広範な人的ネットワークを有していることが多く、イベントや啓発事業、公的施設の企画運営等において多様な人材活用が期待できます。
(例)
・ 河川、道路など地域の住民が美化活動を行っているNPO
・ 公的施設(公園、森林など)の運営管理を行っているNPO
・ 環境フォーラムの開催などの環境保全活動を行っているNPO など
◆専門性を有している点
NPOは行政職員のように定期的な異動はありません。自らが解決したい社会的使命(ミッション)を達成するため、特定の分野を対象に専門的に活動を行っています。そういったNPOと協働することで、より効果的なサービスの質の向上が図れることが期待できます。
(例)
・ 外国人エイズ電話相談を行っているNPO
・ 不登校、ひきこもりの若者に対するサポートを行っているNPO など
◆ 当事者性を有しているという点
サービスを必要としている人々(当事者)自らが活動を行っているNPOと協働することで、当事者の視点にたった、より的確なサービスが期待できます。
(例)
・ 障害者自らが障害者支援を行っているNPO
・ DV被害の経験者自らがDV支援を行っているNPO
・ 子ども達自身が子どもの悩み相談を行っている(チャイルドライン)NPO など
◆ 柔軟性、迅速性をもって先駆的な事業に取り組んでいるという点
行政には、広域にわたり均質なサービスを安定的に提供することが求められます。そのため、事業を実施するにあたり、どうしても慎重にならざるを得ない面があります。
これに対しNPOは、社会的課題があると判断し、団体の社会的使命(ミッション)として活動を行う場合、柔軟性、迅速性をもって先駆的な事業に取り組むことができます。
そういったNPOと協働することで、NPOのノウハウを生かしたかたちで事業実施できることが期待できます。
(例)
・ 痴呆老人を抱える家族を対象にした電話相談をおこなっているNPO
・ 在日外国人を対象に生活支援をおこなっているNPO など
NPOにはこれら以外にも行政にない特長があると思われ、こういったNPOの特長を生かした協働を進めることにより、行政が単独で実施するよりも、相乗効果が期待でき、より効果的、効率的な事業実施がおこなえます。
(3)NPOとの協働がもたらす効果
以上述べたとおり、NPOの特長が十分に生かされた協働を積極的に推進することによって、次の効果が期待できます。
■県行政への県民参画の一層の促進
■県民が主体となった、自発的な公益活動の拡がり
■様々な主体が公益活動を行うことによる、県民のニーズに的確に対応した多種多様できめ細かなサービスの提供
■民間の発想を生かし、費用対効果を考えた、効果的・効率的なサービスの実施
■NPOとの協働を推進することは県民サービスの向上が最終目的
NPOとの協働を推進していくことは、県民サービスの向上、拡大を図るための一つの手段です。
協働だけではなく、NPOそのものの活動が活性化し、市民主導の公共サービスが多種多様化することによってこそ、県民サービスの向上、拡大を図ることができます。
しかしながら、財政面、人材面など脆弱な状況にあるNPOが多い現状(揺籃期)では、行政にはNPOとの協働及び支援を積極的に推進することが求められています。
NPOとの効果的な協働は官僚的、お役所仕事といわれる行政の体質改善にもつながるものであり、行政が単独で行うよりも、より県民のニーズにあった良質のサービスの提供が可能になります。