平成7年2月 和歌山県議会定例会会議録 第4号(馬頭哲弥議員の質疑及び一般質問)
県議会の活動
○議長(平越孝哉君) 質疑及び一般質問を続行いたします。
24番馬頭哲弥君。
〔馬頭哲弥君、登壇〕(拍手)
○馬頭哲弥君 通告に従いまして質問に入ります前に、去る一月十七日早朝の阪神大震災によってとうとい命を失われ、多くの財産を奪われた方々に深い哀悼のまことをささげるとともに、一日も早い復興をお祈り申し上げる次第であります。
知事におかれては、いち早くこの隣県・兵庫の惨状に対し最大限の救援を迅速に行われましたことに敬意を表するものであります。我が県はどこにも増して台風が多く、過去幾多の地震災害にも見舞われてまいりましただけに、県民皆様の救援へのご協力はこれまた一方ならぬものがあったことを、県民の一人として誇りに思う次第であります。
私も芦屋から神戸に入り、惨状を見てまいりましたが、地震発生後四十日余り経過した今日、なおすべての分野でその傷跡を深くし、さまざまな問題を提起し続けております。このことは、近代都市、現代文明の限界を思わせ、多大の反省と教訓を私たちに与えるものであると思います。
去る十二月議会で同僚の木下秀男君が感度よく地震問題を取り上げ、警鐘を鳴らしたことが印象に残っておりますが、私はこのたびの大震災が我々に与えた現実を踏まえ、政府も法的あるいは技術的問題は言うに及ばず各般にわたって対応すると思うのでありますが、我が県土の地理的特徴にかんがみ、その防災対策をどのようにとっていかれようとするのか、知事からまずその基本的ご意見を承りたいと思うのであります。
次に、ここで私の地元・田辺市が直撃を受けた昭和二十一年の南海道大震災の場合を参考にしながら、以下の諸点についてお伺いいたします。
今回の阪神の地震の場合は直下型のため被害範囲が限定的で津波を伴わなかったのでありますが、南海道大震災は大津波によって多数の死者を出し、財産を根こそぎ失いました。記録によりますと、この震源地は潮岬沖南南西五十キロの沖合、東経百三十五度七分、北緯三十三度、有感範囲は北海道、奥羽地方を除き日本の全地域でありました。三、四百キロの広範囲にわたり、局部的には烈震で震度五、最大振幅南北三・二センチ、上下動一・四センチ、東西動二・三センチ、有感継続時間五分であります。
マグニチュード八・一、このクラスは大地震のもう一つ上の「巨大地震」と呼ばれるのだそうでありますが、この巨大地震に伴い起こった津波は、西日向灘から東京湾に至る間に襲来しております。本県北部では地震後一時間で第一波の津波が襲来し、串本など紀南地方はほんの数分から十分くらいの間にやってきております。これが第二波、第三波と続き、そのうち第三波が最も大きく、波高は二メートルから三メートルのところが多かったと言われていますけれども、最高波は白浜の六・五メートル、串本の五・五メートル、広川町の四・九メートル、田辺市新庄町の四・三メートルであります。この南海大地震の大きさは昭和八年の三陸沖地震に次ぐ規模と言われ、三位は昭和十九年の東南海大地震、四位は大正十二年の関東大震災であります。
駿河湾から紀伊半島、四国沖にかけて「南海トラフ」と呼ばれる地帯は言うなれば巨大地震の巣でありまして、古文書に始まる古い記録を見ますと、大体百五十年に一回、ここ四百年間には百年から百十年に一回の計算で、その周期はだんだんと縮まっております。京都大学防災研究所では「次の南海道地震は意外に早くやってくる」と指摘しております。大体二〇一六年ごろではないかという話も聞いております。
田辺市では今、芳養湾の一部を埋め立てて漁港をつくり、この機会に集落整備を進めるべく事業着手いたしております。また、田辺湾中心部の扇ケ浜も一部埋め立て、駐車場や憩いの場としての養浜計画などがあり、文里港も知事のご英断で架橋計画の調査に入っていただくことになっております。特に文里湾は、細く長く、しかも浅い入り江であり、過去の悲惨な経験からいたしまして、特に新庄の方々は最も津波を恐れておるのであります。これら三点セットの海岸事業を進める中で、当然、大型台風あるいは超大型台風、あるいはまた大きな地震による津波、そういうものを見通しに入れた防災対策がなければなりません。
阪神大震災のとき、田辺市は数分後に津波のおそれがないことを放送いたし、市民を安心させたのであります。この緊急情報は衛星同報受信設備でいち早く地震津波情報を的確にキャッチした、全国でもまだ数少ないものであります。長いリアス式海岸線を持ち、また一方山深い我が和歌山県は、無線設備はもとより、自治体ごとに一つぐらいヘリポートを設置していく必要があるのではないかと考えますが、この点はどうか。また、防災意識向上のための広報活動や訓練、新しいマニュアル策定についてどうお考えか、お伺いするものであります。
次に、平成七年度予算案が提示されまして昨年度比六・五%増、知事のお力のほどをうかがい知るのでありますが、厳しい国の財政事情から見て、兵庫県救援に手いっぱいで各府県に減額のおそれが出てくるのではないかという感じが私はいたしておるのであります。この点について、果たして予定の財源は確保し得るかどうか、明らかにされたいのであります。
もう一つは、阪神大震災は局地的でありましたが、今県下に起こっている不況の上へこの地震は、それこそ経済的津波となって襲いかかっております。観光地・白浜など、お客さんの激減により全くどうにもならぬ冷え込み方であります。白浜への納入業者の多い田辺市にも日々影響が出て、実に冷え込みが激しく、潮が引くように不況への追い打ちが始まっております。これらの問題に対する資金的・経済的支援の体制はどうなりましょうか。
最後に、私は田辺市の海岸部に生活される市民の皆さんにかわってお尋ねをいたします。
一例として文里湾の現況を申し上げてご参考に供したいと思いますが、まず文里湾の特徴は、漁港であり、港湾であり、貿易港であるということであります。この三つの指定を持つ田辺湾の公有水面は、昭和三十六年以来、知事の認可を得て貯木場として利用に供されているものであります。つまり、陸上、海上ともに外材の集積場であります。また一方、養殖のいかだもあります。この養殖事業は、昭和三十八年以来、田辺湾において公有水面使用の許可が今日まで継続いたしておるものであります。しかし、最近、そのいかだは田辺湾の沖合まで出てきておるのであります。
そこで、私がお尋ねしておきたいことは、一たび巨大地震によって大津波が襲来したとき、この外材やいかだによってはかり知れない猛威の直撃を受け周辺地域は根こそぎになるということで、海岸線に近いところの方々は非常な不安を今日覚えておられるのであります。
政治は、平時において非常時に備えることが責務であります。一たび津波が起こりますと、これら海上の施設や巨大木が陸上に殺到して恐るべき悲劇を招くことは火を見るよりも明らかであります。大変難しいことでありますけれども、産業立地の側面と地域住民の生命と財産を守るという防災対策は不離一体のものとしてとらえなければならぬところに難しさがあると思うのでありますが、南海大震災以来今日まで文里湾周辺で変わったことと言えば、いそ間の地先に一文字の防波堤ができただけで、その他はさして昭和二十一年の状況と変わるところがないのであります。
どうか、そういう状況を踏まえ、今こそ五十年前の教訓を思い起こし、現場で働いておられる人々の労務管理上の対策も含め、新しい危機管理の構築があるべきだと思うのであります。どのようなご見解をお持ちであるか、お答えをいただきたいのであります。
これで終わります。ありがとうございました。
○議長(平越孝哉君) ただいまの馬頭哲弥君の質問に対する当局の答弁を求めます。
知事仮谷志良君。
〔仮谷志良君、登壇〕
○知事(仮谷志良君) 馬頭議員にお答え申し上げます。
県の防災の基本的対応ということでございます。
お話ございましたように、本県は数多くの災害に遭遇してまいりました。そしてまた、はかり知れない痛みを受けてまいったのでございます。こうした経験をもとにして県の防災対策に取り組んでいるところでございますけれども、とりわけ馬頭議員のように、災害を実際に体験された方々のご意見を防災に生かさなければならないと考えておるところでございます。
特に、話ございました文里湾の木材係留等の問題については、後ほど土木部長から答弁いたしますけれども、今回の大地震にかんがみ、その係留許可等についてもなお一層十分の配慮をしていかなければならないと思っております。特に今回の大震災で感じましたことは、発生直後に通信体制が崩れたこと、そして災害時に最も大切な被害状況の把握や緊急の応急対策が適切に行われなかったことが問題の一つとなっておるわけでございます。こうしたために、危機管理の観点から本県では、従来ある防災行政無線だけではなく複数の通信手段を機能的に組み合わせることにより危機管理の体制をつくり、災害時の情報の伝達がスムーズにいく体制の確立が最も肝要なことではないかと思っておるところでございます。
また、このほか、職員の動員配備、自衛隊を含めた広域応援のあり方等々についても点検・検討作業を開始しており、さらに新年度からは、被害想定調査を実施して総合的な防災対策の見直しをすることといたしておるところでございます。また広域の応援体制については、先日、神戸市で開かれた近畿の知事会議の場で、私が座長になりまして、防災訓練の共同実施や物資等の共同備蓄などについての検討を申し合わせたところでございます。
また、本県のような地形では、陸上交通が寸断された場合には空と海を利用した交通手段への切りかえということも十分に検討していかなければなりません。こうした観点から平成七年度には防災ヘリコプターを導入することをお願いしているところでございまして、各市町村に臨時の発着場を積極的に整備してまいりたいと考えております。
最後に、ご指摘の防災意識の向上についてでございますけれども、災害時には県民一人一人の防災に対する知識というものが生命、財産を守る上で大きなよりどころとなると考えております。このため県では、防災の情報を盛り込んだパンフレットの配布や起振車による地震体験等、あらゆる機会を通じて防災意識の向上を図ってきたところでございますけれども、今回の震災の経験を生かした形での各家庭で利用できるマニュアルづくりについても、ご指摘のように検討していかなければならないと考えております。
以上です。
○議長(平越孝哉君) 農林水産部長日根紀男君。
〔日根紀男君、登壇〕
○農林水産部長(日根紀男君) 県の防災の基本的対応についてのご質問のうち、二点につきましてお答えいたします。
まず、芳養漁港の集落整備計画と扇ケ浜の養浜計画に係る防災対策についてでございます。
芳養漁港の整備計画については、水産振興と背後集落における住環境の向上を目的として、この防災対策については事業主体でございます田辺市において、第二室戸台風級の波浪及び南海道地震と同規模の地震が引き起こす津波を想定してシミュレーションを行うなど、構造物の建設及び背後集落の安全性に細心の注意を払って計画しているところでございます。
また、扇ケ浜の養浜計画については、昔の美しい砂浜の復元を図り市民に憩いの場を提供するものでございまして、その防災対策については芳養漁港と同様の波浪を想定し、特に人工リーフ、養浜及び波の緩衝地となる公園などを面的に配置する防護方式を採用し、安全性に努めてございます。
なお、先般の阪神・淡路大震災での教訓を生かし、今後とも地元関係者と協議を進めながら、津波、台風などの災害に強い漁港、漁村づくりを目指して取り組んでまいります。
次に、田辺湾の養殖いかだの津波による地域への影響についてでございます。
平成六年十二月二十八日の三陸はるか沖地震や昭和五十八年五月二十六日の日本海中部地震における養殖施設の状況を見ますと、津波により養殖施設そのものの移動は見られたものの、地域への直接的な被害はなかったものと聞いてございます。
しかしながら、県としてはこれまで、区画漁業権の免許に際し、田辺湾も含め、各免許者に対して養殖いかだを強固ないかりで固定するなど施設の安全管理について指導しているところでございます。今後さらに、震災時のことを念頭に置いて、係留能力の向上等、安全性を高めるため徹底した指導を行ってまいりたいと考えてございます。
以上でございます。
○議長(平越孝哉君) 土木部長山根一男君。
〔山根一男君、登壇〕
○土木部長(山根一男君) 馬頭議員の防災の基本的対応についてのご質問、二点についてお答えいたします。
まず、文里湾架橋の超大型台風や津波対策についてでございます。
文里湾架橋──仮称でございますが──については、平成六年度より田辺市とともに、当地域における幹線道路のネットワークを形成する上での架橋の必要性、それから交通量の予測、事業手法などについて検討に入っておる段階でございます。今後調査を進めていくわけでございますが、その上で南海道地震の被害を教訓に十分な検討を行い、大型の台風の波浪などにも十分配慮して設計を進め、地域住民の皆様の安全にも万全を期していきたいと思っております。
次に、津波に関連して田辺湾の外材などによる脅威についてでございます。
文里湾においては、チリ地震津波後に津波対策のための防波堤などの整備を図ってきたところでございます。議員ご指摘の、津波と水面に係留した木材の流出との因果関係を明らかにし二次災害を引き起こすことのないようにすることは、大変重要な課題であると認識してございます。
現在、木材の一時係留として五件許可しており、その許可条件の中で、流出防止措置として木材を相互に結束し、かつそれを強固な係留ブイに結束させるなど、占用者に対して十分な管理を行うよう義務づけているところでございますが、今回の地震を契機として、地域の皆様も不安を感じておられると思いますので、さらに安全性を高められるよう、許可基準の見直しを含め検討してまいりたいと思っておるところでございます。
以上でございます。
○議長(平越孝哉君) 総務部長木村良樹君。
〔木村良樹君、登壇〕
○総務部長(木村良樹君) さきの震災のための国の経済対策が本県の財政運営に影響を及ぼさないかというご質問でございますが、阪神・淡路大震災への国の対応については、平成六年度分として仮設住宅の建設、道路、港湾、住宅等、公共施設の復旧等に要する経費として一兆二百二十三億円の第二次補正予算が昨日成立したところでございます。
議員ご質問の七年度当初予算の財源面における地方財政への影響についてでありますが、これについても、先般来、新聞等で当初予算の公共事業費の執行を一律五%留保するとの方針が決まったというようなことが出ておりますし、それからまた被災地に各種交付税措置を行うということになってきますと、その分、各県へ配分する分が減ってくるというようなことも──そういうことはないと思いますが──場合によっては予想されますので、これらの影響を受けて本県の財政運営に支障が出ることがないように、今後、情報の的確な収集に努めてまいりますとともに、事業の執行等についても従来よりもより慎重に対処してまいりたいと考えております。
○議長(平越孝哉君) 商工労働部長中山次郎君。
〔中山次郎君、登壇〕
○商工労働部長(中山次郎君) 阪神・淡路大震災により、白浜など観光地はもとより打撃を受けている商業ほか各産業の経済的・資金的支援についてお答えします。
今回の阪神・淡路大震災により、県内観光地においても宿泊等の予約の減少やキャンセルにより観光関連業者が大きな打撃を受けているのが現状でございます。このような状況のもとではございますが、県と旅館組合、輸送機関等が協力して、本県観光地にとって宿泊、入り込み客の半数近くを占める同地域の被災者の方々を県内観光地に招待し、心身ともに疲れをいやしていただくこととしてございます。その第一陣として、去る二月二十七日より一千余名の方が県内観光地で二日間の休養をしていただいているところでございます。このことは、県内観光地の振興にも役立つものと考えてございます。さらに、全国への観光PR活動も積極的に行っているところでございます。
また、議員ご指摘の、地震の影響を受けた旅館や商店を含めた県内中小企業者に対する資金的支援については、県としても緊急に対策を講じる必要があると考え、知事専決処分により地震災害対策融資資金制度を融資枠二十億円で創設し、信用保証協会等、関係機関の協力を得る中で二月一日から融資の受付を始めているところでございまして、地震の影響を受けている中小企業者の資金需要にこたえているところでございます。また同日、県庁内及び各県事務所に相談窓口も設置し、中小企業者からの融資相談等にも当たっているところでございます。平成七年度についても、地震災害対策融資の融資枠をさらに四十億円に拡大し、引き続き実施していくための予算を今議会にお願いしているところでございます。
今後も、地震による影響、景気動向等も十分踏まえながら、きめ細やかな中小企業対策に取り組んでまいりたいと考えてございます。
以上でございます。
○議長(平越孝哉君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
〔「なし」と呼ぶ者あり〕
○議長(平越孝哉君) 以上で、馬頭哲弥君の質問が終了いたしました。
これで、本日の質疑及び一般質問を終わります。
明日も定刻より会議を開き、質疑及び一般質問を続行いたします。
○議長(平越孝哉君) 本日は、これをもって散会いたします。
午後二時零分散会