平成17年9月 和歌山県議会定例会会議録 第5号(山下大輔議員の質疑及び一般質問)
県議会の活動
午後一時四分再開
○議長(吉井和視君) 休憩前に引き続き、会議を開きます。
質疑及び一般質問を続行いたします。
二十六番山下大輔君。
〔山下大輔君、登壇〕(拍手)
○山下大輔君 皆さん、こんにちは。
それでは、議長のお許しをいただきましたので、通告に従って一般質問をさせていただきます。今議会も貴重な質問の機会を与えていただけたことに感謝をして、心を込めて質問、提案をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
さて、暑い夏も終わり、もう秋です。時間のたつのが本当に早く感じますが、この夏は、多くの先輩・同僚議員の皆様も選挙に大変な御苦労をされたものと思います。私も、無所属の立場で高校の先輩となる候補の方を応援させていただいたものですが、大変な思いをいたしました。
政治はなかなかつらいことが多いと実感させられるきょうこのごろですが、しかし、選挙においてお手伝いをする中で、いろいろと勉強になることもございました。その中で、特にトヨタ自動車の仕事の進め方、その真髄といったことについて、非常におもしろいお話をお聞きいたしました。これは今の行政運営にも参考になると思いますので、少し御紹介させていただきたいと思います。
トヨタでは、うまく事を運べた、大成功したものがあれば、翌年には必ず抜本的な見直しを行うということです。うまくいった、成功したものがあったら本来は、行政的な発想で言えば、うまくいったんなら来年も同じように事を運ぼうというのが普通の発想だと思いますが、しかしトヨタの奥田会長は、先頭に立って、そういった停滞する考えを厳しく戒めるそうです。ことしうまくいったのなら、それは社会情勢、消費者のマインドなどが一致したピークであって、来年は社会情勢、さまざまな環境も当然変化するわけで、ことし成功したものを同じように繰り返せば、逆に来年は成功することはないという考え方です。社会は一刻もとどまってくれるものではなく、必ずその変化に対応していかなくてはいけない。現在の行政にとっても非常に参考になる話だと思います。
今、県としても停滞していることは許されず、これまで皮膚感覚で身についているスピード感を変えていく必要があります。のんびりと一日千秋の思いで仕事をしていては決して望むべき成果を上げることはできません。特に、地域間における厳しい競争環境が生まれようとしている今日には、より積極的に状況に応じた判断を行い、さまざまな取り組みを進化、加速させていこうとする姿勢が必要とされます。県民から大きな期待を寄せられる政治、行政に停滞は許されません。さらなる成果を上げるためにも、私自身も立ちどまることなく、徹底した活動を進めていかなくてはならないと強く感じた話でした。
それでは、第一問目で、立ちどまらない和歌山県の挑戦として、地域の特徴を伸ばす取り組みのさらなる進展、観光医療産業の振興策、恵まれた和歌山の自然などの観光資源と予防医学、健康サービスなどとの連携を加速させる取り組みについて。
さて、今、三位一体の改革などを通じて地方分権が進展し、分権型の国家像が模索される状況にあります。私自身も前回の議会で御報告申し上げたドイツでの調査を経験して、改めて分権国家のあるべき姿、その基本理念として、魅力ある地域の集合体として魅力ある国家が形成されるということを実感しました。
そんな中で、我が国では、過去、金太郎あめとやゆされた地方の状況を省みて、将来を見据えてどういった取り組みが必要とされるのか、真剣な検討が各地域で進められようとしています。そこでは、地方も生き残りをかけた激しい競争環境が生まれ、地域の特性を生かした徹底した個性化、ブランド化が必要とされる中で、それぞれの地方の知恵比べが始まっています。
そんな中、今、和歌山県でも木村知事のもと、都市との交流の視点から、半島に位置する条件も含めて、地方である特性をとらえたさまざまな施策が積極的に推進されています。今議会冒頭の知事説明の中でも述べられていましたが、緑の雇用事業に始まり、農業をやってみようプログラム、また青の振興和歌山モデル事業など、全国的にも注目を集めるさまざまな取り組みが実行されています。地域の特徴を伸ばすそれぞれの取り組みは重要なもので、県として努力されていることは大いに評価しつつも、しかし現実問題として、和歌山の置かれた客観情勢は、やはりまだまだ厳しいのが実際のところです。
国土交通省は、この九月二十日に、二〇〇五年の都道府県地価調査を発表しました。先日、浦口さんも触れられていましたが、「日経流通新聞」によると、商業地は、東京都と東京都区部がともに一九九〇年以来十五年ぶりに全体で上昇に転じ、また都市再生事業などがうまくいっている札幌、福岡市などの地方都市でも上昇する地点があらわれて、全国的に見ても土地価格の下落状況は下げどまりつつあるとの認識が示されていました。関西、大阪などでも大阪市天王寺、阿倍野、旭の三区、また京都市上京区、兵庫県芦屋市などでは平均値をとっても上昇していて、京阪神地域においては上昇や横ばいに転じた地点が目立つようになっているようです。
しかし、私たちの和歌山については、まだまだ厳しい状況が続いています。調査対象となった住宅地、商業地を合わせて全国で二万六千五百二十一地点のうち、下落率が最大であった十の地点が公表されていましたが、その中で、和歌山は何とそのワーストテンに二カ所も入る状況となっています。第五位にマイナス二二・二%の下落として和歌山市本町一丁目、そして第七位に和歌山市有家字寺田のマイナス二〇・一%と続く状況です。
この地価というのは、非常に重要な地域の価値をはかる物差しであり、その地域の現在、未来の可能性を示すバロメーターとも言われます。当然、価値の高い地域、魅力のある地域の価値は高くなるわけで、現在の和歌山の地価が下げどまらない状況については、その現実をしっかりと受けとめることが必要です。
もはや今の厳しい和歌山の現状については、決して小手先の取り組みで改善されるものではないことを覚悟して、今こそ、つらく厳しいときですが、長期の展望に立って和歌山の地域というものを根本的に生まれ変わらせていく努力が必要とされているんだと思います。
そこでは、やはり和歌山の地域資源を生かして和歌山独自の魅力を磨き上げ、地域としてのブランドづくりを進めていくという、今、県が取り組んでいるものを辛抱強くやり抜く決意が必要で、あわせて今重要なことは、できるだけそれらの取り組みをスピードアップさせていくということが望まれています。
そこで今回は、これまでも提案してきました和歌山の特徴である恵まれた自然環境を生かした観光と健康サービス、予防医学などを組み合わせた取り組み、いやしの地和歌山のブランドづくりを加速させる提案をさせていただきたいと思います。
私自身、初めて県議会に登壇し、最初の議会質問で提案させていただいてから、その後も民間企業などを含め、さまざまな研究機関が行う勉強会に参加させてもらってくる中で、やはりこの観光と健康サービス、観光と医療、特に予防医学などを組み合わせた取り組みは日本の将来にとっても欠くことのできない産業となるものであり、和歌山にとっては地域の魅力創造、地域の価値を高めるものとして非常に有効な取り組みであると改めて確信しているところです。
ことし三月にも、厚生労働省、国土交通省の協力を得て本県で進められていた調査事業「こころの空間・癒しの交流づくり」に関する調査報告書が出されていますが、そこでも改めて、この観光資源に健康サービス、医療、特に予防医療の付加価値をつけた取り組みが将来にわたって大きな可能性のあることが示されています。
さて、そんな中で、現在の和歌山県の観光、医療にかかわる具体的な動きとしては、本宮町・熊野エリアで熊野健康村構想として県職員の皆さんが努力をされて、さまざまな成果を上げつつあります。しかし、今後は、さらにそれらの取り組みを加速させていくことが必要とされます。
本県には、熊野地域だけではなく、まだまだ県下全域を対象として「観光医療」といったくくりで取り組める可能性のある素材がたくさんあります。それらをどのようにして短期間のうちにうまく事業化させていくことができるのか、知恵の絞りどころだと思います。そこでは、あくまで行政は縁の下の力持ちであり、主役は民間で、民間の事業者にどれだけ活躍してもらえるのかが重要なポイントとなります。
これは知事もよく言われていることですが、民間の事業者の皆さんが活発に事業を行える環境づくりをするのが行政である。しかしながら、単にほうっておいて、勝手にこちらの望む事業を行ってくれるわけではありませんので、政策によって誘導することは欠かせません。民間の事業者の知恵、アイデアをうまく引き出して、民間事業者が主体となって積極的に事業を行ってもらえる環境づくりを進めることが今急がれます。
そこで提案ですが、現状でまず取り組むべきものとして、県内事業者のみならず、外部からの資本、事業者を呼び込む呼び水となる補助、助成、優遇などの制度整備について御検討願いたいと思います。
これまで県でも、職員の皆さんが懸命な努力をしていただき、幾つかのモデル事業を立ち上げてくれていますが、しかし今後は、並行して外部からより多くの協力者を得る努力を一気に進めるべき時期に来ています。観光と健康サービス、予防医学などを組み合わせた取り組みに興味を示す全国の事業者に呼びかけて、ぜひ和歌山県を舞台に魅力ある事業を推進してもらう。具体的な制度設計については、最初は全く新しいものを考えなくても既存の制度をうまく組み合わせるなど、これまでのものを活用しながら実現していけるものと考えます。
また、制度を整備する上で重要なポイントとして、とにかく魅力ある支援制度を早急に整えて、全国から多くの事業者の集積を図ることが大切です。地域においてブランド化を進める有効な手段としては、共通のコンセプトを持って事業を進める事業者を集積させることが何より重要となります。そこから集積のメリット、スケールメリットを引き出す。一業者でやるよりも、共通の考え方、コンセプトを持った多くの事業者が集まることで、それぞれに宣伝、集客などで相乗効果を上げて投資効率を高めていくことが期待できます。魅力ある事業の集積が始まれば、そこからは行政が特に手を出さなくても連鎖的に好循環が始まり、さらなる事業者を引き寄せることにつながります。
現状であれば、全国的にもさまざまな動きは出ていますが、まだ観光医療、健康サービスを目的とする事業者の集積は可能なタイミングだと思います。早急に支援体制、支援制度を整えていただいて、できるだけ早い段階で幾つかの核となる事業を実現させてもらいたいと思います。
また、この支援制度を整備することについては、そのこと自体にも大きな意義があります。支援制度をつくるところから既に和歌山のブランド化が始まります。それは、情報発信といった視点から新たにつくる支援制度を売り出していくことで、和歌山の考えていることを多くの人に知ってもらうきっかけとなり、いやし、健康、観光和歌山といった情報発信の一つのコアとなります。和歌山県が未来に向けてどういった地域になろうとしているのか、どういった方向で地域の自立、ブランド化を図っていこうとしているのか、そのことを理解してもらう一つの重要な取り組みとなるのです。
さて、そこで知事にお伺いいたしますが、昨年、ことしと熊野健康村構想に取り組み、また調査事業などを行ってきていますが、その調査報告の内容などを受けて、改めて豊かな和歌山の自然などの観光資源と予防医学、健康サービスを結びつけた取り組みを県内全域で進める意義、その可能性についてどのように認識されておられるのか、御所見を賜りたいと思います。
また、あわせて、目の前の課題として、和歌山県内の事業者のみならず、県外の事業者を含めて民間の投資、事業を呼び込む呼び水となる支援制度、支援体制の整備を早急に進めてもらいたいと考えますが、その取り組みについても御見解をお伺いいたしたいと思います。
続きまして、産業振興に係る取り組みについて。
この九月定例議会のタイミングは、来年度を見越して、予算また組織、機構の改革を提案させていただくのに非常に大切な時期に当たります。このタイミングにおいて、改めて私自身がこれまで議会で取り組んできたわかやま産業振興財団を初めとする産業振興施策にかかわる諸問題について、これまでの進捗状況の確認とあわせて幾つかの新たな提案をさせていただきたいと思います。
まず、この産業振興にかかわる最初の質問として、知事に現状における和歌山の景況認識と産業支援に対する姿勢についてお伺いしたいと思います。
今、三位一体の改革、財政の構造改革などにより、地方にとってはある面ではいよいよ痛みも出てくる来年、平成十八年度となりそうですが、そこでは産業振興に係る取り組みについても、国として進めてきた幾つかの事業について施策の統合・廃止などが進められ、国庫補助の削減も現実のものとなりそうです。
そんな中、産業支援の知事の意気込みをお聞かせいただきたいと思うのですが、今、和歌山県も産業の立て直し、再構築といったことで重要な局面に来ています。あくまで産業の再生、経済の立て直しなくして将来のどんな施策の充実もあり得ないわけで、経済の語源となる「経世済民」の言葉どおり、しっかりと経済を安定させて県民の皆様に将来への希望を持っていただかなくてはなりません。特に産業政策の取り組みについては、国も力を緩めようとする中で今が肝心なところであり、これまで県として力を入れて進めてきたものについては、単に国からの支援が削減されるということで、同じように力を弱めてはいけないのだと考えます。
そもそも産業支援というのは、経済環境、景気によって伸び縮みするものであり、景気がよくなれば支援策を縮小するのは当然ですが、しかし悪ければ拡大させていくべきもののはずです。
そんな中で、中央政府は国全体を見ての景況判断について、踊り場を脱して成長過程にあるとの認識を持って産業支援を縮小する方向を示していますが、しかし地方の現実、特に和歌山などでは景気の底入れというところまでは来ておらず、まだまだ厳しい状況が続いています。国の施策はあくまで画一的で、しかし、経済浮揚の実態が特におくれる地方においては、国の方針どおりに進むのではなく、県として毅然とした対応をすべきだと考えますが、そこで知事に、現在の景況認識と平成十八年度に向けた今後の産業支援に対する取り組み姿勢について、その基本的なお考えをお聞かせ願いたいと思います。
続いて、わかやま産業イノベーション構想について。この構想については私自身も大きな期待を持ってこれまで議会でも取り上げさせてもらいましたが、多くの事業も軌道に乗って、当初の思惑に近い形で進んでいるようです。
私も、友人何名かの若い経営者にこの取り組みを紹介し、一緒に話を聞きに行きもいたしました。時宜を得た事業だと多くの人が評価されていましたが、さらに今後に期待しつつ、現状の取り組み内容を改めて確認させていただきたいのですが、まず、平成十六年六月一日に、県庁組織の再編とあわせてテクノ振興財団と中小企業振興公社が統合されてわかやま産業振興財団が誕生しています。そこでは、新規創業や新分野進出、技術革新、経営革新など多様な事業を総合的にサポートする体制が整えられ、これまでばらばらの窓口で進められていた産業政策をワンストップで解決していく取り組みの有効性が強調されていますが、具体的にここまでどういった成果が出てきているのか。今後の展望とあわせて商工労働部長に御答弁をいただきたいと思います。
また、わかやま産業振興財団では、私自身強く要望していた民間企業出身者の活用についても積極的な取り組みが進められているようです。民間企業の優秀な人材を財団のラインの部長に思い切って登用するなどは、非常に評価されるべきものと考えます。経営支援部長として松下電器産業から木瀬良秋氏、花王からはテクノ振興部長として西村敏郎氏をそれぞれお迎えしたことの評価は特に高いようです。また、財団の看板事業となっている企業プロデュース事業並びにものづくり支援アドバイザー事業においても、民間から多くの有能な人材を積極的に引き入れて事業を推進されておられます。
そこで、実際に民間企業から経験のある能力の高い人材を受け入れてくる中で、どのような成果が上がっていると考えられているでしょうか。また、実際にサービスを利用している県内の中小事業者の皆さんの反応はどういったものとなっているでしょうか。これもあわせて商工労働部長から御答弁を願いたいと思います。
さて、このように国の内外で活躍されていた民間の優秀な人材を取り込んで地域の中小事業の活性化に役立ててもらうというのは、非常に有効な取り組みだと考えます。
そこで、新たな提案ですが、今後、二〇〇七年問題、団塊の世代の優秀な企業人が会社の縛りが解けて一気に社会に出てこられる状況が目前となっていて、一部マスコミなどでも報道されていますが、これは地方の中小企業にとって大きなチャンスになるものと私は考えます。そこでは、単にそういった人材を県でストックするのではなく、優秀な企業人に地域の中小企業へダイレクトに入っていってもらうことができないかと考えます。しかしながら、実際問題として、地域の中小事業者の方が独自でそのような人材を確保していくことは、その出会いの機会からも非常に難しい現状があります。
そこで、具体的な提案として、地域の中小事業者の皆さんと企業から出てこられる有能な人材のマッチングを図る仕組みづくりを県として提供していく。例えば、県が音頭をとって全国から参加者を募り、スケールの大きな再雇用市といったものを開催して、企業の紹介から人材のマッチングを図るといったコーディネートをする取り組みなどをぜひ行っていただきたいと思いますが、いかがでしょうか。これは知事から御所見を賜りたいと思います。
さて、この産業振興にかかわる最後として、SOHO事業の活性化について。
昨年の議会で私自身、SOHOを本来の価値ある取り組みとするためには、企業の成長を支援するインキュベーションマネジャーの設置がぜひとも必要であるといった提案をさせていただきましたが、その後もSOHO入居者の方たちといろんな話をしてくる中で、やはりその必要性を強く感じているところです。
そんな中で、先日、日本の起業家支援の先駆者である芝浦工業大学・星野教授から突然、和歌山に来ているので会えないかという電話をいただきました。しかし、ちょうどさきの衆議院選挙の期間中であったので、とてもお会いできる状況にはなく失礼をしたのですが、その後、改めてお話を伺うと、和歌山県に来てインキュベーション施設の調査をしてくれていたそうです。そこでは、やはり星野先生も、和歌山のSOHO事業で致命的な問題としてインキュベーションマネジャーの必要性を強調されていました。せっかくよいSOHOが和歌山県には二拠点もあるのに、このままでは宝の持ちぐされになってしまうと心配してくれていました。
そこで、昨年来提案していたことですが、来年、平成十八年度に向けて経済センター並びにリサーチラボのSOHOオフィスにインキュベーションマネジャーを配置することを何としても実現させていただきたいのですが、これも商工労働部長からお考えをお聞かせ願いたいと思います。
さて、最後に、子供の育つ環境整備の一方策、里親制度への支援策の充実について。
今、子供の育つ環境をどのように整備していくのか。これは、少子化対策なども含めて、国家の運営、地域運営の根本を揺るがす大きな政策テーマであり、喫緊の課題となっています。私自身も今後とも強い問題意識を持ってしっかりと取り組んでいかなくてはならないと思っていますが、そういった思いを持ちつつ、最近のテレビのニュースなどを見ると、毎日と言ってよいほど、児童虐待の事件など子供に関する非常に残念なニュースが報道されている現実があります。私も小さな子供を持つ親として非常に残念に感じるとともに、何ともやりきれない思いがしますが、そんな中で、特に今回は何らかの事情で実の親元で暮らすことができなくなった子供たちの問題について、児童養護、里親制度といったものに焦点を絞って質問、提案をさせていただきたいと思います。
現在、厚生労働省の統計によると、子供の虐待件数は、平成二年が一千百一件であったものが、虐待防止法が施行された平成十二年、約十年たって何と約十六倍の一万七千七百二十五件となり、直近の調査を行った平成十六年にはさらに三万二千九百七十九件と、倍増する状況にあります。また、理由は虐待だけではないのですが、実の親のもとで育てられない子供たちは、平成十四年度末で全国で約三万五千人にも上っています。
日本では、親が育児を放棄したり虐待が理由で保護された子供たちのほとんどが養護施設で生活をしていますが、そんな子供たちの中で、まだまだ少数でありますが、一般の家庭で預かる制度として里親制度があります。この里親制度は既に長い歴史のあるものですが、しかし、社会的には依然として浸透していないのが現実です。
そもそも里親制度とは、子供の幸せのための制度とも言われています。子供はあくまで家庭の中で親の愛情を受けて育つのが本来の姿ですが、しかし、何らかの事情で自分の家庭で暮らすことのできない子供たちに温かい家庭を提供する制度であり、さまざまな事情のある子供を迎え入れて、たくさんの愛情を注ぎつつ子供を健全に成長させていく、本当の家族のようにサポートしてくれるのが里親さんです。
現在は、保護者のいない児童、また保護者に監督・保護させることが不適当であると認められる児童の養育を都道府県が里親に委託する形となっています。里親の登録数は、昭和三十八年の約一万九千人をピークとして減少傾向が続いてきていましたが、実際に委託される里親数については、平成十一年を底に上向きに転じています。今後は、国の方針としても、大規模施設での児童養護から小規模施設並びに里親制度の活用といったことへ大きくかじが切られようとしていて、大規模施設に偏った取り組みが見直されようとしています。
これも、厚生労働省の調査によると、全国で里親登録をしているのは平成十五年三月現在で七千百六十一家庭ですが、実際に里子を育てている里親さんは千九百五十八家族にとどまっています。和歌山県の状況としても、里親の登録数は、この八月末現在で七十二家庭あるのですが、実際に里子として受け入れられているのは十三家族、十四人となっています。これらの数字は、乳児院、児童養護施設に全国で約三万人、和歌山県では約三百五十人が入所しているのに比べると非常に少ない数字であり、日本の特に施設に偏った児童養護の実態があります。
先進国の例を比較してみると、イタリアの場合では施設での養護が七二%、里親の養護が二八%、ドイツでは施設五七%、里親四三%、フランスでは施設が四七%に里親が五三%、デンマークなどでは施設が三九%、里親が六一%、アメリカ、イギリスなどに至っては、施設養護は約一〇%程度であり、九〇%近い子供を家庭のケアで受けとめている実態があります。日本の場合は施設九三%、里親が七%といった状況で、日本の場合は特に施設対応に偏った状況が浮き彫りになっています。
児童養護施設出身者や在籍している子供たちの中には、里親と一緒に暮らしたかった、自分だけに愛情を注いでくれる里親家庭で暮らしたいという声が多いそうです。
先日、この和歌山で実際に里親として子供を育てられた経験のある四家族の方にお会いし、お話を伺ってきました。そこでは、集団の中の一人としてではなく、愛情を独占できる里親を子供たちは求めている、子供を預かっていて、施設でいるときよりも多くの改善点が見られる、字の書き方も大きく変わり、精神的にも落ちつきを取り戻している、何事にも意欲的に取り組めるようになり、特に褒められる喜びを知ることから多くのことが改善されているなどといった事例をお聞かせいただきました。確かにケース・バイ・ケースで施設での取り組みも大切ではありますが、しかし、里子として家庭の中で子供を成長させることの意義は大きいと思います。
養護児童の中には、PTSD(心的外傷後ストレス症候群)に悩まされている子供も多く、彼らの心の傷をいやすのは、「あなたは大切な人なんです」という里親からの強力なメッセージが必要であり、あくまで施設は集団で、そこにいる大人は先生でしかなく、里子の場合は家庭に引き取られ、擬似的にでも家族、親といった立場で見守られることになり、集団では行き届かないケアも家庭での取り組みで何とか改善していけるケースも少なくないとも話されていました。
他人の子供を育てるということは当然簡単なことではありませんし、多くの里親さんの家庭では、言葉で言いあらわせない大変な苦労を積み重ねられて、血のつながった家庭以上の努力をして家族をつくっています。
さて、このような状況を御理解いただいた上で、今、里子として受け入れを考えておられる家庭において、もっと体系立った支援が必要だと言われています。里親同士の交流支援、委託前後の研修の実施、実の両親との交渉援助、子供の心理的な負担を解消するカウンセリングの実施など。また、何よりも経済的な負担が大きいのが問題となっていて、経済的な支援策の充実も急がれています。里親制度が実の両親にかわって温かい家庭を提供する制度であるにもかかわらず、里親になる人が減少している。その大きな要因の一つには、やはり経済的な困難さもあるようです。
さて、そこで幾つかの質問をさせていただきたいのですが、まず知事に、現在の子供が育つ環境の中で、児童虐待、最近は特に実の両親からの虐待が大きな社会問題ともなっていて、親元を離れて暮らさなければならない子供がふえている状況がありますが、この現状についてどのような御認識を持たれているでしょうか、御所見を賜りたいと思います。
また現在、厚生労働省は、小規模施設もしくは里親制度を活用した家庭での子供の養育の重要性を認めて、これまでの大規模施設偏重の取り組み方針を大きく変えようとしています。そんな中、今後、和歌山県としてどういった方針で児童養護について取り組んでいかれようとするのか。今後の取り組み姿勢、その方針といったものについて、これも知事から御答弁をいただきたいと思います。
またあわせて、今年度、和歌山県の施設児童等扶助事業県費援護費要綱が改定され、幾つかの扶助費が廃止されています。少し調べてみると、平成十六年度の実績で、就職支度費で七十万、その他自立支援費の名目で四十五万といった県からの支援について、すべて削られてしまっています。今、国でも特に里親制度については数値目標も設定してその推進を図ろうとしていて、また県としても子供を育てる環境を充実させるという方針を打ち出しているときに、この改定には疑問を持ちます。
子供という社会的にも最も弱い、しかも実際の親から引き離されるという厳しい環境にある子供への対応として、とても残念な話になっていると感じます。ぜひこの支援制度については、形はどうであれ、何とかしてその状況を改善してもらいたいと考えますが、これは福祉保健部長から御見解をお聞かせ願いたいと思います。
また、里親制度自体に対する社会的な認識も非常に進んでいない現状においては、県としてこれまで以上に普及啓発をしていく取り組みを進めてほしいと思いますが、あわせて御答弁を願いたいと思います。
以上で、私の一問目を終わらせていただきます。御清聴ありがとうございました。
○議長(吉井和視君) ただいまの山下大輔君の質問に対する当局の答弁を求めます。
知事木村良樹君。
〔木村良樹君、登壇〕
○知事(木村良樹君) まず、熊野健康村構想というものについての考え方ということですけれども、今非常に世の中はせわしないんですが、一般の人の中には、健康で人間らしい暮らしということを求めるという傾向もまた強くなっているということが現実でして、これが「スローライフ」とか「スローステイ」とかいうふうな言葉で今もてはやされているというふうなことだろうと思います。
そういう中で、和歌山県のこの熊野地方というのは、その名前を聞いただけで精神的な安らぎが得られるというふうなこともありますので、ここを大々的にこういう特質を生かして何か、NPOであるとか民間企業であるとか、そういうところと協力しながら観光、そしてまた医療、安らぎというものを合わせたような産業地域にできないかということで、去年ぐらいから本格的に取り組んでいるのがこの熊野健康村構想です。
ようやく、NPOであるとか県の職員とか、いろいろな努力によって、かなり都会の方でも注目を集めるようになってきましたし、現に進出をして、いろいろな健康的な試みをしようというところも出てきております。ただ、まだ全体像がもうひとつはっきりしないんで、私もあっちこっちでいろいろこのことのPRをするんだけど、言っている本人がよくわかってないというようなところもありますので、来年度に向けて、全体をやはりある程度体系化して、どういう方向を目指していくのかということをもう少し一般の人にもわかりやすい形にしていきたいと思います。
そしてまた、この熊野の地域でこれが成功すれば、例えば和歌山には高野山もありますし、いろんなところでこういうことの可能性のある地域もあると思うので、またこれを県下に広げていくような努力もしていきたいと思います。
さらには、これは役所主導じゃなくて、NPOであるとか民間企業とか、そういうところの独創的な活動とか意欲というものを大事にしておりますので、こういうことをやろうというところについては県の方が支援をするというふうな、後方サポートというような形で積極的にいろんな支援体制というものをつくっていきたい、このように考えております。
次に、和歌山県の景況認識と今後の産業支援ということですけれども、景気については、はっきり日本全体で、もういろんな面でよくなってきています。和歌山県でも、確かに一進一退ではありますけれども、個別の指標を見れば、全国ほどではないけれども改善が見られることは、これは間違いのない事実です。
ただ、今回の景気の回復は、個人についても非常に強者と弱者をつくる、まあ言ってみれば、自分で自由主義で自立して頑張っていこうというふうなことですので、これは地域にとっても同じことが言えるわけで、余り努力をしなければ、ある程度は発展はするかもしれないけれども弱者の側に立たされるという危険が今までの景気の回復期と違って非常に大きいと。
そういうふうなこともありますので、和歌山県でも、例えば住金が一千億の投資をするなど明るいこともあるんですが、よそ頼みにしていてはいけないんで、和歌山県の地場の産業なんかに新しい形で光を当てて支援していく方策であるとか、それから新規の起業を行う人たちにいろんな形でサポートしていく仕組みであるとか、県の工業試験場なんかがこういう新しいことをする企業にできるだけいろんな支援ができるような仕組みをつくっていくこととか、それからもう一つは、企業誘致についても、ここ十数年はもう日本全体が冷え切っていたので、はっきり言って、幾ら努力しても来るところはないわというふうな状況だったんですが、やっぱり状況が今変わりつつあるんで、和歌山県内にもまだいろいろな遊休土地を県も抱えておりますので、こういうところを弾力的に提供するような仕組みをつくって、しかも相手が来るのを待っているということじゃなくて積極的に、こういう地域では新たに設備投資を始めそうだと、そして和歌山がいい条件を出せば来てくれるかもしれないというふうなところについては前向きにこちらからもう出向いていって引っ張ってくるというふうな努力も必要だと思いますし、現にそういうことをしていく体制を今年度から来年度にかけて積極的につくっていきたい、このように思っております。
それから、民間OBの人の活用ということですが、これからの団塊の世代で、さらに、例えばスローステイをしたいという人も出てくると思うんだけど、企業とかいろんなところで自己実現を続けていきたいと思うような人がたくさん出てくる可能性があります。都会を中心にそういう人が出てくると思うんですが、そういう人に和歌山の企業で少しそういう面での人材に欠けているというふうなところに来ていただくということは、非常に有効なことです。
県の外郭団体に来ていただいた方も、先ほど御質問にありましたように八面六臂の大活躍ということで非常に評価を受けているというふうなこともありますから、この面でのマッチングの施策、どういうふうな形がいいのか、これはまた担当の方で検討すると思いますけども積極的に対応していきたい、このように思っております。
それから、児童虐待についてのことですが、今、現代社会、非常に複雑化して、また子育てが大変というようなこともあって、そういう中で親が子供をいじめると──まあ昔もあったんでしょうけども極端にそういう傾向が出てくるというふうなことで、和歌山でもこういうことが深刻な問題になっていることは私も十分に理解をしております。
そういう中で、やはり子供のときに何かそういうふうな迫害とか精神的な打撃を受けた子供は必ずそれがトラウマになって、また次に同じことが繰り返されるというふうな傾向が強いということも医学的にもある程度証明されていることですので、そういうふうな悲しい目に遭った子供にできるだけ家庭的な温かさということを与えてあげて、そしてできるだけ回復してもらうというふうなことは、これはもう非常に大事だと思いますし、そういう中で里親制度ということが、施設での取り組みということも大事ですけども、それだけじゃなくて、この里親制度というのが多分物すごく大きな役割を果たすだろうと私は思います。
今お話を伺って、やはり体系立った支援であるとか、それから実の親との交渉であるとか、そういうふうなことがすべて里親に任せ切りになるということでは、これ、なかなか、幾ら心が優しくてそういうふうな里親になってあげようという人がいても二の足を踏んでしまうというふうなことはあると思いますし、それから経済的な面でも、何から何まですべて里親の負担ということになると、これまた二の足を踏むというふうなことになると思いますので、そういうふうな非常に福祉の心を持った方々の厚意が生かされるような仕組み、これも担当課の方でいろいろまたちょっといい仕組みを考えていかないといかんと、このように思っております。
○議長(吉井和視君) 商工労働部長下 宏君。
〔下 宏君、登壇〕
○商工労働部長(下 宏君) 産業振興の取り組みについて、三点の御質問にお答えをいたします。
まず、和歌山産業イノベーション構想の現在までの成果と今後の展望についてでございますが、構想の推進に当たり、統合により財団法人わかやま産業振興財団を発足させ、県の産業支援課を県経済センターに移し、県内の中小企業を総合的、一体的に支援できる体制を整えました。このことにより、ワンストップで中小企業者の皆さん方の相談に応じることが可能となり、また現場を積極的に訪問して企業の課題解決に取り組むとともに、商談会、展示会、あるいは個別の販路開拓などを通じて着実に成果を得ているところです。今後、さらに拡大を図ってまいりたいと考えております。
次に、民間人登用の成果、利用者である中小事業者の皆さんの反応についてでございますが、いろいろなノウハウを蓄積された民間企業OBの方々の経験は社会の貴重な財産であり、財団幹部職員への登用を初めとし、現場での実地指導など、各方面において県内中小企業振興のために専門的な知識や人脈を活用いただいているところです。
なお、企業プロデュース事業を御利用いただいた中小企業者のアンケートにおきましても、約九割の方から満足との回答を得ており、期待した効果を上げつつあるものと考えております。
次に、SOHO事業の活性化策としてのインキュベーションマネジャーの配置についてでございますが、事業経験の乏しい新規事業者には、創業、技術、経営、営業など企業活動全般に関する悩みに対して、同じ目線に立ってアドバイスできる専門家が必要と考えております。有識者の御意見もお聞きしながら検討を進めているところでございます。
以上でございます。
○議長(吉井和視君) 福祉保健部長嶋田正巳君。
〔嶋田正巳君、登壇〕
○福祉保健部長(嶋田正巳君) 里親制度の中で、まず里親さんへの支援策の充実でございますが、里親制度においては、養育費として里親手当、生活費、学校教育費、児童の医療費などを公費で給付しておりますが、それでも里親さんの経済的負担が大きいことは承知をしてございます。このため国においても年々支援制度が改善されておりますが、議員御指摘の県独自の支援につきましても、関係者等の御意見も伺いながら時代のニーズに対応した児童の処遇の向上及び安定した自立のための支援策を講じてまいりたいと、こう考えております。
次に里親制度の普及啓発でございますけれども、里親制度は、議員御指摘のとおり、よりきめ細かい個別的な養育環境が必要な児童や施設における集団養護になじみにくい児童にとって大変重要な制度であると考えております。
しかしながら、一部には、里親と養子縁組は同義というような誤解もございまして、里親制度が十分に理解されているとは申せません。このため、県ホームページへの掲載やテレビ、ラジオでの広報、パンフレットの配布などを行っているところでございますけれども、今後ともさまざまな機会を通じて県民の皆さんへの認識が深められるよう、より一層の普及啓発に努めてまいりたいと思います。
以上でございます。
○議長(吉井和視君) 答弁漏れはありませんか。──再質問を許します。
二十六番山下大輔君。
○山下大輔君 御答弁いただき、ありがとうございました。
まず、観光と医療を組み合わせてという部分で、知事もおっしゃっていましたけれども、観光、医療、いやし、安らぎ、そういうことを来年度で一たん整理しながら、和歌山県としてどういう形で一気に進めていく方策があるのかということを検討していただくということですんで、ぜひお願いしたいと思います。
その中で、質問でもお話ししましたが、支援策、支援制度、支援体制というのは早急に整えていただきたいと。これはもう待っているんじゃなくて、県としてもそういう企業に対してアプローチして、呼んでこれるような積極的な働きをすると。それはもう、支援制度、支援体制を整えていただいたら、私も和歌山のセールスマンとなっていろんな制度自体を売っていきたいと。そういう売れるための武器というのをしっかりとつくっていただいて、県外事業者、県内事業者を含めて活発なそういう観光、医療にかかわる事業が発展できるような取り組みをぜひ進めていただきたいと思います。これは要望でお願いいたします。
それともう一点、里親さんへの取り組みなんですけれども、知事並びに部長が前向きに里親の必要性というのを御理解いただいて、これからしっかり取り組んでいただくということなんですけれども、私もお話を伺いに行って、本当にもう家庭での負担というのが物すごくやっぱり重いと。ある程度周りの環境をつくってあげないと、幾ら気持ちがあっても、なかなかうまく里親制度というのを活用していけない現状もあるように思いますので、細かい部分についてはまた適宜、担当課、部長を含めてお願いしていきたいと思っておりますので、ぜひ今後とも、大規模施設に頼るということだけじゃない、小規模施設、里親制度の活用というのを県として御答弁いただいたとおり積極的にお進めいただけるようにお願いいたしまして、これも要望として二点お願いいたしたいと思います。
以上です。
○議長(吉井和視君) ただいまの発言は要望でありますので、以上で山下大輔君の質問が終了いたしました。